労働安全衛生法及び作業環境測定法改正の主なポイント
目次
第1 はじめに
本ニュースレターは、「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」が令和7年5月14日に公布された(令和7年法律第33号)ことを受けて、順次施行される同法律の改正内容を周知する目的で解説するものです。
第2 改正の概要(厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要」から抜粋)
1.個人事業主等に対する安全衛生対策の推進【労働安全衛生法】
既存の労働災害防止対策に個人事業者等も取り込み、労働者のみならず個人事業者等による災害の防止を図るため、
① 注文者等が講ずべき措置(個人事業者等を含む作業従事者の混在作業による災害防止対策の強化など)を定め、併せてILO第155号条約(職業上の安全及び健康並びに作業環境に関する条約)の履行に必要な整備を行う。
② 個人事業者等自身が講ずべき措置(安全衛生教育の受講等)や業務上災害の報告制度等を定める。
2.職場のメンタルヘルス対策の推進【労働安全衛生法】
ストレスチェックについて、現在当分の間努力義務となっている労働者数50人未満の事業場についても実施を義務とする。その際、50人未満の事業場の負担等に配慮し、施行までの十分な準備期間を確保する。
3.化学物質による健康障害防止対策等の推進【労働安全衛生法、作業環境測定法】
① 化学物質の譲渡等実施者による危険性・有害性情報の通知義務違反に罰則を設ける。
② 化学物質の成分名が営業秘密である場合に、一定の有害性の低い物質に限り、代替化学名等の通知を認める。なお、代替を認める対象は成分名に限ることとし、人体に及ぼす作用や応急の措置等は対象としない。
③ 個人ばく露測定について、作業環境測定の一つとして位置付け、作業環境測定士等による適切な実施の担保を図る。
4.機械等による労働災害の防止の促進等【労働安全衛生法】
① ボイラー、クレーン等に係る製造許可の一部(設計審査)や製造時等検査について、民間の登録機関が実施できる範囲を拡大する。
② 登録機関や検査業者の適正な業務実施のため、不正への対処や欠格要件を強化し、検査基準への遵守義務を課す。
5.高齢者の労働災害防止の推進【労働安全衛生法】
高年齢労働者の労働災害防止に必要な措置の実施を事業者の努力義務とし、国が当該措置に関する指針を公表することとする。
6.施行期日
令和8年4月1日
(ただし、1①の一部は公布日、4②は令和8年1月1日、3③は令和8年10月1日、1②の一部は令和9年1月1日、1①及び②の一部は令和9年4月1日、2は公布後3年以内に政令で定める日、3①は公布後5年以内に政令で定める日。)
第3 「個人事業主等に対する安全衛生対策の推進」及び「職場のメンタルヘルス対策の推進」に関する補足説明
1.個人事業主等に対する安全衛生対策の推進について
建設アスベスト訴訟の最高裁判決(令和3年5月)において、労働安全衛生法第22条(健康障害防止措置)が、労働者だけでなく、同じ場所で働く労働者でない者(例えば、建設現場で就労する一人親方など)も保護する趣旨との判断がされたことを受けて、同条に基づく省令の規定が改正されました。
例を挙げると、注文者(建設業におけるゼネコン等)が講じるべき措置の義務付けとして、建設業、造船業、製造業の注文者には、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所で行われる場合には、混在作業による労働災害防止のため、作業間の連絡調整等の必要な措置を講じることが義務付けられているところ、この統括管理の対象に個人事業者等を含む作業従事者を追加する等が挙げられます。
2.職場のメンタルヘルス対策の推進
・現行法ではストレスチェック(「心理的な負担の程度を把握するための検査」(労働安全衛生法第66条の10))は常時50人以上の労働者を使用する事業場に義務付けられている(50人未満は努力義務)ところ、これを全ての事業場に義務化されるようになりました(施行日は、「公布後3年以内に政令で定める日」とされており、令和10年5月頃までに施行される見込みです。)。
・ストレスチェックは、年に1回、「職業性ストレス簡易調査票」等を用いて、事業主の指定する医師等が実施者となって労働者に心理的な負担の程度を把握するための検査を行うものです。
・ストレスチェックは、事業主に実施を義務付けるものあり、労働者側に受検義務はありません。
・現在、常時50人以上の労働者を使用する事業者については、1年以内ごとに1回、ストレスチェック等に関する結果等を所轄労働基準監督署長に報告する義務を負っており(労働安全衛生法第100条、労働安全衛生規則第52条の21)、この報告義務に違反した場合、労働安全衛生法第120条第5号の規定に基づき、罰則(50万円以下の罰金)の対象となります(報告義務を定める労働安全衛生規則第52条の21は、現状、常時50人以上の労働者を使用する事業者を対象としていますが、今後、変更される可能性があるため留意する必要があります。)(厚生労働省「ストレスチェック制度関係 Q&A」(以下「Q&A」といいます。)の「Q19-3」参照)。
・ストレスチェックに掛かる費用については、事業主が負担すべきものとされています(「Q&A」の「Q0-4」参照)。
第4 おわりに
労働安全衛生対策を講じるためには、企業として法令等によって定められた使用者の義務について理解を深め、厚生労働省が示すガイドライン等に則って具体的な措置に取り組むことが大切です。具体的にどのような安全配慮措置を講じることが適切かは企業の内部体制や規模により様々ですので、法律の専門家である弁護士にお気軽にご相談下さい。
