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中小受託取引適正化法(改正下請法)の成立と実務への影響

本稿執筆者
本多 翔吾

本多翔吾(ほんだ しょうご)法律事務所 ASCOPE所属弁護士

目次

【本稿は2025年10月号のニュースレターにて執筆されたものです】
 ASCOPEでは企業活動に関わる法改正や制度の変更等、毎月耳よりの情報をニュースレターの形で顧問先の皆様にお届けしております。
 会社法務に精通した社会保険労務士、顧問弁護士をお探しの企業様は、是非ASCOPEにご依頼ください。

1 はじめに

 令和7年5月16日、下請代金支払遅延等防止法(いわゆる「下請法」)の大幅な改正が国会で成立し、同年7月には関係規則案が公表されました。本改正は約20年ぶりの大改正であり、法律の名称も「中小受託取引適正化法(略称:取(とり)適法(てきほう))」へと変更されます。施行日は令和8年1月1日とされており、多くの企業に実務上の影響を与えることが見込まれます。
 本ニュースレターでは、改正のポイントを整理し、実務上留意すべき事項を解説いたします。

2 改正の背景と目的

 従来の下請法は、独占禁止法の補完法として、中小事業者の取引上の地位を保護する目的で制定されてきました。しかし、以下の課題が指摘されていました。
 ・資本金基準のみを用いた適用範囲の限定により、実態に合わない場合がある。
 ・運送委託など、独占禁止法の「物流特殊指定」でしか対応できない取引が存在する。
 ・物価・人件費の上昇にもかかわらず、価格転嫁が進まない。
 ・手形払いや振込手数料負担といった不利な商慣行が依然として残っている。
 今回の改正は、こうした課題を是正し、サプライチェーン全体での「適正な価格転嫁」「取引の公正化」を促進することを目的としています。

3 改正の主要ポイント

⑴ 法律名・用語の変更
 ・名称は「下請代金支払遅延等防止法」から「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に変更。
 ・通称は「中小受託取引適正化法(取(とり)適法(てきほう))」。
 ・用語も整理され、「親事業者」→「委託事業者」、「下請事業者」→「中小受託事業者」へ変更。
⑵ 適用対象の拡大
 ア 従業員基準の導入
   資本金基準だけでなく、従業員数が基準として新設されました。
   具体的には、

 ●物品の製造委託・修理委託・特定運送委託
 ●情報成果物作成委託・役務提供委託
  (プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管および情報処理に限る)
従業員300人超の委託事業者→300人以下の中小受託事業者(個人を含む)」
 ●情報成果物作成委託・役務提供委託
  (プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管および情報処理を除く)
従業員100人超の委託事業者→100人以下の中小受託事業者(個人を含む)」

 といった形で規定されています。
 これにより、従来は対象外とされていた中堅企業間の取引も規制対象となる可能性が生じます。
 イ 特定運送委託の追加
   従来は運送の再委託のみが対象でしたが、今後は、販売先や発注者への納品のために必要な運送委託も取適法の規制対象とされます。例えば、家具小売業者が販売した家具を顧客に届けるために他の運送事業者に委託する場合などがこれに該当します。
⑶ 禁止行為の追加・強化
  従来の禁止行為(受領拒否、支払遅延、減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、報復措置、不当なやり直し等)に加え、以下の禁止行為が追加されました。
 ア 協議を適切に行わない代金決定の禁止
  中小受託事業者が価格協議を求めても応じない、必要な説明や資料を提供しないまま代金を一方的に決定する行為が禁止されます。原材料高騰等の状況で発生しやすい違反であり、注意が必要となります。
 イ 手形払等の禁止
  支払手段として手形を用いることは全面的に禁止されました。また、電子記録債権やファクタリング等についても、支払期日までに代金額を満額現金化できない場合は違法となります。
⑷ その他の改正
  書面交付義務:中小受託事業者の承諾なく、メール等の電磁的方法での交付が可能。
  遅延利息:代金の減額があった場合も含め、受領後60日を超える遅延や減額分に対して年率14.6%の遅延利息が発生。
  勧告制度:是正後でも再発防止策等の勧告が可能。
  対象物:木型・治具も金型と同様に規律対象に追加。

4 実務への影響

 今回の改正は、企業実務に直結する内容が多く含まれています。
 まず、従業員基準の導入により、従来は下請法の枠外と考えられていた中堅企業間の取引も、対象に含まれる可能性が高まります。特に従業員数が100名以上の企業は、早急に自社取引が対象となるか否かを精査する必要があります。
 また、価格協議に関しては、これまで以上に慎重な対応が求められます。協議要請を放置したり、形式的な対応にとどめると「協議拒否」とみなされるおそれがあり、違反リスクが高まります。企業は、価格協議を受けた際の社内フローや記録の残し方を整備しなければなりません。
 さらに、支払方法についても、従来の手形払や振込手数料の控除といった慣行はすべて違法となります。支払条件を改めて整理し、取引基本契約書や発注書式を早急に見直す必要があります。
 違反が確認されれば、公正取引委員会や中小企業庁による調査・勧告の対象となり、その内容は公表されるのが原則です。信用失墜リスクが非常に大きいため、法令遵守体制の強化は喫緊の課題といえます。

本執筆者からのメッセージ

 今回の改正は、単なる用語変更にとどまらず、対象拡大、禁止行為強化、支払条件規制の見直しなど多岐にわたり、企業実務への影響は非常に大きいといえます。
 施行は令和8年1月1日ですが、実務対応には一定の準備期間が必要です。
 ・自社の取引先・契約を洗い直し、対象範囲を確認する。
 ・契約書の修正や価格協議フローを整備する。
 ・支払方法を改正法に沿うよう変更する。など、早期の対応が求められます。
ご不明点や具体的な対応については、ぜひ担当弁護士までご相談ください。

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